イギリスが社交ダンスの世界の覇権を握っていた時代に、イタリアで無名な選手をトレーニングをしてジュニアの世界チャンピオンを次々と生み出して行くコーチが出現した。
その方に3年間の交渉の末、私がいたアメリカのスタジオに足を運んでもらい、レッスンを受けることができるようになった。ダンスの理論、体の動き、エネルギーの使い方などを数々の疑問がクリアーになっていく毎回のレッスンに衝撃を受けたのを思い出す。
また、恩師はダンスの技術のみならず、人生哲学 においても私に大きな影響を与えてくれた。
初対面、最初のレッスンで、『オレンジはどんな味?あなたにとっての味と私の感じる味は同じですか?』と聞かれた。私は、『オレンジはオレンジだから、『だれでもオレンジは同じに感じます』 と答えた。恩師は『同じではありません』と言った。
なぜこのような会話になったのか?
はっきり覚えていないが、私の学びの定義は、”先生が言っていることや感じていることを真似す ること”=”正しい学びの方法”だと理解し、恩師にどう感じればいいんですか?のような質問をしていたのではないだろうか?
彼は、『人はそれぞれ体型も考え方も違う、ましてや、好みや感じ方も違う。同じオレンジを食べたとしても味覚は違う。つまり、全員に対して、同じことを同じように教えても、それぞれに受 け取り方や理解の仕方が違う。自分の感覚に耳を傾けよ。他人の感じていることをコピーするの ではない』と言った。
当時の私には、その意味がわからず、『早く答えを教えてください。その通りに真面 目にやりますから』という気持ちが強かった。
彼はまた、人に教えるということから多くの学びがあると教えてくれた一人でもある。
『いいコー チとは、生徒の身体、能力、性格、癖など色々な側面を理解し、その人のレベルに近寄り、その 人が理解できるアプローチで内容を伝えることができる能力や情熱をもち、その理解と努力をす る指導者(Teacher)だ。有名であるとか、なんらかの肩書きがあるとかで、判断することはできない』と。日本人はブランド名や肩書きに振り回されて、真実を見ることができない傾向がある国民だ、と釘をさされたのが、彼との出会いの始まりである。
かれこれ25年の月日が流れて、恩師との交流はなくなっているが、彼の教えを心に留めて、毎回 のレッスンをする日々である。
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